by John Siau  November 14, 2016

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最高のDACチップがさらに高性能に!

ESSテクノロジーが革新的なDACチップES9018を発表してから7年余りが経ちました。このDACチップは、デジタルオーディオ変換に画期的な改良をもたらし、7年間、最高性能のオーディオD/A変換チップとしての地位を維持してきました。

しかし、新たなDACチップがトップの座を主張しています。不思議なことに、この地位の継承者は、競合他社からではなく、ESS自身から発表されたものです。2016年10月19日、ESSTechnologyはまったく新しいES9028PRO 32ビットオーディオD/Aコンバーターチップを発表しました。ESSは今や競合他社より2歩先を進んでいる、というが当社の見解です。

このアプリケーションノートでは、ES9018と新しいES9028PROの違いを検証します。また、Benchmark DAC2とDAC3を比較し、業務用製品で達成可能な性能向上の例について述べていきます。

新DACチップES9028PRO

当社Benchmark Media Systemsは、数か月間に渡り、新DACチップ、ES9028PROの初期サンプルを使用してきました。多くの測定、リスニングテストを実施してきましたが、とても感心したと言わざるを得ません。そして、テストの結果、既存のD/Aコンバーター製品ラインナップに2つのプレミアムD/Aコンバーターを追加することにしました。新製品DAC3HGCは、人気を博したDAC2HGCの高性能バージョンで、DAC3 Lはヘッドホンアンプを必要としないユーザー向けの製品で、DAC2 Lの高性能バージョンです。

新製品Benchmark DAC3の紹介

Benchmark DAC3は、新DACチップES9028PROを使用した最初の製品群の1つです。DAC3には、DAC3HGCとDAC3L の2モデルがあります。両モデルとも鋭意生産中で、2016年11月14日に出荷を開始しています。

ES9018と新チップES9028PROの内部構成

以下のブロック図は、ES9018およびES9028PROの内部構成を示したものです。

ES9018のブロック図(DAC2に使用)

S9028のブロック図(DAC3に使用)

全体的なアーキテクチャは明らかに似ていますが、ES9028PROには4つの大きな性能向上がES9018に対して加えられています。

  • THD補償
  • オーバーサンプリングフィルターの改良
  • PLLの改良
  • 電源供給の改良

これらの中で、THD補償が最も巧妙でユニークな機能であると考えています。フィルターの改良により、よりフラットな周波数特性を実現しています。PLL回路の改良により、デジタル入力選択を実質的に瞬時切り替えすることが可能になっています。また電源供給の改良は、各ブロック間の電磁誘導によって発生するTHDを最小限に抑え、THD補償にも貢献しています。

THD補償

この32ビットデジタル処理ブロックは、チップ上のアナログ出力で発生するTHD(全高調波歪み)の補償を行います。D/Aコンバーター内部の外付けアナログ部品を補償するように調整することもできます。このシステムでは、2次高調波と3次高調波の歪みをそれぞれ個別にゼロにすることもできます。その結果、2次および3次高調波歪みに関して実質的に完璧なD/A変換システムが実現することができます。

当社の実験では、オーディオ帯域全体で2次高調波歪みが減少し、耳の感度が最も高い中域で最大の改善効果が見られました。中域では、この補償回路により2次高調波歪みが8〜12dB減少しています。

2次高調波補償システムの性能を、以下のグラフに示しています。2つのプロットは、DAC3のXLR出力での2次高調波歪みで、黒のプロットは、THD補償を無効にした特殊なテストモードでのDAC3の挙動を示しています。赤のプロットは、THD補償がオンになっているDAC3の通常動作を示しています。THD補償をオフにした場合のDAC3のTHD性能は、DAC2の性能と実質的に同じでした。赤のプロットは、THD補償処理が有効であることを示しています。この独自の処理は、DAC3で実現した主要な性能向上の1つです。

オーバーサンプリングフィルターの改良

ES9028PROでは、フィルターの選択肢が改善されています。通過帯域でのリップルが最小になるフィルターを選択しました。この新しいフィルターは、ES9018で利用可能なフィルターでも最高の通過帯域性能を持つものを上回っています。

DAC2およびDAC3 D/Aコンバーターでは、211kHzの固定サンプリング周波数でDACチップを駆動することで、選択した内蔵フィルターの周波数シフトが発生することに注意が重要です。オーディオ帯域を超えた、ナイキスト周波数に近い帯域で周波数シフトが起きます。Benchmarkのアップサンプリング・システムにより、内蔵フィルターで発生する時間領域エラーを完全に除去することができます。211kHzのアップサンプリング周波数は、内部フィルターのカットオフ周波数を105kHzに設定することを意味します。これにより、フィルター遷移域はサンプリング周波数192kHzのナイキスト周波数96kHzより高い帯域に存在することになり、オーディオ信号に害を与えません。

このBenchmark独自の211kHzアップサンプリング・システムによって、DACチップのフィルターに通常みられるナイキスト周波数に近いエラー成分の発生を防ぎ、ES9028PROのデフォルトで実装された内蔵フィルターを使用する代わりに、通過帯域のリップルが最小なるように最適化したフィルターを実装することができるのです。DAC3とDAC2はどちらもBenchmark独自の211kHzアップサンプリング・システムを使用しており、どちらも卓越した周波数領域性能と時間領域性能を実現していますが、ES9028PROに施された改良により、DAC3の通過帯域リップルはDAC2よりもわずかながら減少しています。

PLL回路の改良

ES9028PROは、ES9018よりも素早くロックできるよう改良されたデジタルPLL(フェーズロックループ)を装備しています。新しいチップは、わずか6ミリ秒未満で高精度にロックすることができます。実用面では、これは瞬時と言える速さです。このパフォーマンスを活用し、UltraLock2™システムのタイミングを変更して、新しいUltraLock3™システムを開発しました。

BenchmarkのUltraLock™システムの2つのバージョンは、ほぼ完全なジッタ減衰能力を備えており、ESSのDACチップ内にあるPLLの性能をを上回っています。DAC2では、ES9018がロックするのを待つために、ミュート回路を450ミリ秒遅らせる必要がありましたが、ES9028PROではミュート期間を6ミリ秒未満に短縮することができました。

驚くべきことに、DAC3の位相は、非常に短い6ミリ秒でミュートが解除された時点で完全に安定状態になります。対照的に、DAC1コンバーターは約50ミリ秒でミュートを解除しますが、PLLの位相が安定するまでに、さらに2秒かかります。DAC2コンバーターでは450ミリ秒間ミュートしますが、DAC3と同様に、ミュート解除時には完全に安定状態になります。

以下の3つのグラフは、Benchmark UltraLock™システムの3つのバージョンでロック時間の改良がどのように行われてきたかを示しています。プロットを比較するときは、時間軸の目盛りの違いに注意してください。どのグラフでも、ミュート期間を完全に表示するように時間軸が調整されています。赤い線は、ミュート機能の近似エンベロープを示しています。DAC1ではESS製DACチップを使用していませんが、DAC1のミュートタイミングのグラフは、この解説に異なる視点を加える目的で示されています。

ULTRALOCK™ (DAC1)

ULTRALOCK2™ (DAC2)

ULTRALOCK3™ (DAC3)

入力セレクターを使用したA/Bテスト

新しいUltraLock3™システムによって実現した超高速で高精度な位相安定により、デジタル入力間のシームレスな切り替えが可能になりました。そのため、DAC3の入力セレクターは2つのデジタル入力間のA/B比較を行うのに適しています。DAC2では450ミリ秒の長いミュート期間があること、DAC1ではPLLが安定するのに2秒という長い時間を要することから、この2つの製品でA/Bテストを実行するときには入力セレクターを使用できませんでした。

それと対照的に、DAC3は、わずか6ミリ秒でシームレスな入力切替えが可能で、DAC1では安定時に発生する周波数シフトをまったく示しません。したがって、DAC3を使用して、2つのデジタルソースの正確な比較を行うことが可能になります。これは、オーディオ業界のプロフェッショナルだけでなく、多くのオーディオファンにも高く評価される機能です。

ES9028PROの性能に関連する選択肢

ES9028PRO外部の周辺回路は、製品メーカーの予算と基板スペースの制約に合うように、必要な性能と回路の複雑さを構成することができます。当社BenchmarkがDAC2を設計したとき、ESSが推奨する性能に関するすべてのオプション機能を使用することから始め、次に独自の拡張機能を追加しましたが、同様の手法がDAC3にも引き継がれています。

性能重視指向により、周辺部品の点数は大幅に増加しますが、これらの追加部品によって性能は大幅に向上します。それを実現するには、ES9028PROソリューションの持つ性能には、ばらつきがあることを認識することが重要です。包括的な性能は、製品メーカーの予算、目標、およびスキルによって決まります。

DAC3では、Benchmarkは以下の手法を使用してES9028PROのパーフォーマンスを最大化しています。

  • 4:1並列処理:SN比6dB向上
  • 外付けI-V変換部:低ノイズと低歪みを実現
  • 高精度差動アンプ:コモンモード歪みの除去
  • 超低ノイズ電圧レギュレーター:Benchmark独自のディスクリート設計により、ノイズと歪みを低減
  • UtraLock3™ジッター減衰システム:実質的に完全なジッター除去を実現
  • 211kHzアップサンプリング:DACチップで発生する時間軸エラーを排除
  • 高ヘッドルームDSP:サンプル間ピークでのクリッピングを排除
  • 外部グランドプレーンを備えた6層回路基板:ノイズ低減とRF干渉に対するシールドを実現

Benchmark D/Aコンバーター製品仕様比較表